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2014年6月8日日曜日

九州電力 退職金・企業年金3割下げる

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九州電力が退職金や企業年金を下げていくと報道されています。調べてみると九州電力は「確定給付企業年金」制度で年金を運用しています。今回は確定給付企業年金のリスクが顕在化した形です。
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退職金・企業年金の給付水準引き下げ方針発表

『 九州電力が、退職金と企業年金の給付水準を引き下げる方針を労働組合に示していたことが6日、分かった。会社が負担する金額を今後減らし、将来的には標準的な退職者で給付額をそれぞれ3割程度減らしたい考え。併せて60~65歳のシニア社員を原則フルタイム勤務とする再雇用制度の改革案も示した。』
九州電力が
  • 退職金
  • 企業年金
の給付水準を引き下げると報じられていますね。

給付水準を引き下げれば、実質的に給付額も引き下がると考えていいですね。

給付額を3割減らす方針

『給付額をそれぞれ3割程度引き下げたい考えで』
(http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/news/20140607-OYS1T50050.html より)

九州電力の企業年金はどのように運用されてるんでしょうか。

九州電力の企業年金は「確定給付企業年金」

『Ⅰ.九州電力確定給付企業年金の概要

当社年金制度は、昭和 43 年4月に国税庁が管轄する適格退職年金制度としてスタートした。ご承知のとおり適年制度は平成 13 年の確定給付企業年金法の成立に伴い、平成 24 年3月末で廃止されることとなっている。そうした背景もあり、当社では平成 16 年4月に規約型の確定給付企業年金に制度を移行して現在に至っている。
 制度の特徴としては、給付利率を金利に連動させる擬似キャッシュバランス制度である点、そして予定利率も明確にルール化してはいないものの原則金利連動となっている点であり、連動する金利はともに従業員の平均残存勤務期間に合わせて「20 年国債の過去5年平均」を採用している。
 また、受給者数の比率もかなり高くなってきており、現在では給付額が標準掛金額を上回り、制度の成熟化が相当程度進んでいる。(平成 20 年3月末 加入者数 12,479 人・受給者数 7,821 人、平成 20 年度 標準掛金額約 70 億円・給付額約 150 億円
 本制度のもと、当社内においては制度面を人事労務部が主管し、運用面を経理部が担当して3名の専任チームで業務にあたっている。』
(平成20年9月26日の文書「九州電力における年金資産運用の理念とビジョン」より)
九州電力は、
  1. 「適格退職年金制度」から「確定給付企業年金」に制度を移行している
となっていますね。

適格退職年金制度から確定給付企業年金に制度を移行

図でみてみるとこんな感じ。
確定年金企業年金
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/sonota/kigyonenkin/kigyonen_1.pdfより引用
適格退職年金が平成24年3月末に廃止になる予定だったので、その前に「確定給付企業年金」に制度を移行したのですね。

図を見てみればわかりますが、
  • 解約
  • 確定給付企業年金
  • 中小企業退職金共済制度
  • 退職年金基金
  • 厚生年金基金
という選択肢がある中で、九州電力は「確定給付企業年金」を選択したのですね。

確定給付企業年金のリスクとは?

『確定給付企業年金
適格年金を有する企業の場合、確定給付企業年金は給付の仕組みの視点で みれば、同じ確定給付型の制度ということもあり、本来最も移行しやすい制 度であるともいえます。しかし、実際には、適格年金と同様の退職給付債務を計上することが必要であり、将来的に運用リスクが企業に残る点が解決されないことや、制度運営のためのより厳密な財政検証が必要なこともあり、 中小企業では導入がそれほど進んでいません。』
(http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/sonota/kigyonenkin/kigyonen_1.pdf のP5より引用)
「確定給付企業年金」は「退職給付債務」を計上しなくてはいけないわけですね。

つまり、今回の報道では、九州電力は、退職給付債務の計上額を減らさなければ、企業を維持できないと考えてそうしたということになりますね。今回は、上記引用箇所に書いてある通りの「運用リスク」が現実になった形です。

さて報道に戻ります。

よく読んでみると、これで大丈夫なのかという感じです。
『 ともに今夏にも労使で合意し、2015年度からの導入を目指す。』
『 原発の停止で業績悪化が続く中、人件費を削減する一方で、シニア社員が活躍しやすい環境を整えるのが狙い。』
例えば、国の「経済成長シナリオ」は、女性の労働力確保と、男性高齢者の労働力確保が大前提となっています。左記のリンク先にグラフがあるので見てみてください。九州電力も男性高齢者の労働力を安価に確保することで成長戦略を練っていると考えて良いかもしれません。

ただし、若い社員に関してのケアはどうなっているのか気になりますね。
『 退職金、年金の引き下げは、昨春実施した電気料金の値上げ申請時に打ち出した経営効率化の一環。来年度以降、退職金と年金の毎年の積立金額を減らす。』
来年度以降、積立金額を減らすわけです。これは若い社員に対してのデメリットと言えます。
これまでの積み立て分は取り崩さないため、既に退職したOBへの給付水準は変わらず、若い社員ほど影響は大きくなる。』
ここが重要ですね。

OBへの給付水準は変わりません。これから積立金額を減らすので、現在社員の人の給付水準が下がっていくのですね。実質的に、若ければ若い社員であるほど退職金と企業年金の減額となっていきます。

責任者の地位であればあるほど(年齢が高いと考えるのが自然)、原発事故の責任があるはずなのに、若い社員であればあるほど年金や退職金の給付水準が下がっていくのはフェアではありませんし、社員のモチベーションを下げる要因になりそうです。

「会社が潰れたら大変だから、社員へのケアを薄くしますよ」

ということですね。

社員のためではなく、企業の生き残りをかけていると言えますね。
『 労組に示したのは今年5月半ば。労組は職場の意見集約を進めており、今後、労使交渉に入る。経営側は今夏にもまとめたい考えだ。』
『 再雇用制度は、現在、労働時間を短縮して働くケースが8割を占めるが、フルタイム勤務を基本とする制度に改める。顧客対応や災害復旧などに経験豊かなシニア社員の力を活用する。
すでに退職して、年金をそのまま手に入れているシニアにフルタイムで働いてもらうということなわけですね。
『 55~59歳の社員の賃金水準を抑制することで、シニア社員のフルタイム化に伴う給与増額分を確保する。今後の大量退職や厚生年金の受給開始年齢の引き上げも背景にある。』
就職希望者の減少や、退職希望者の増加を見越しながら、安価な労働力をどのように確保していくのかという決断ですね。
『 九電の14年3月期連結決算は純損失が960億円と、3年連続の赤字だ。電気料金の値上げで売り上げは増え経費削減も進めたが、原発停止でかさんだ火力発電所の燃料費を埋められなかった。 』
原発事故のリスクが顕在化したと言えますが、同時に、企業年金(確定給付企業年金)の運用のリスクが顕在化した形とも言得るのではないかと思います。

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